詩 「悲しむんじゃないよ」

2013年04月11日 18:34

   悲しむんじゃないよ(衣詩誌28号招待席から)

ふいに悲しむんじゃないよ と聞こえてきた

堂々と老いてきたのだ 山坂越え狼煙を上げ

草原をたどり 青空を慕い 大過もなく

雨も風も難なく凌いでここまで来た

 

悲しむんじゃないよ

怒りも涙も人が育つための大切な栄養価の高い食べ物

苦かろうが辛かろうが 甘いだけがいいんじゃない

転んだり擦りむいたり 泣きじゃくったりしても

ここまで立派に老いたんだから

 

悲しむんじゃないよ

俯かず真っ直ぐを見て分け入るんだよ

滑らかな肌に触れるような

もどき言葉に笑いながら裏側で はにかんだ

肌寒さが素通りする 陶酔する

棘の痛みにゆるく反応し 半開きの眼を怯えさせる

故知らぬ 季節の風

 

誰でしょうね

耳の奥でじっと潜んでいるのは

啼き続けているのは地虫か 秋の蝉か

同じ音程で啼き続けている

耳をふさいでみても

頭いっぱいに溜め込んだ過去が

きしきしと鳴き砂のように音立てて

 

誰でしょうねこっそり 忍び足で

悲しむんじゃないよと

近づいてくるのは