詩「樹と風と」(詩集風を抱く)より
2013年09月12日 19:35
樹と風と
人にはそれぞれ振り返ってみる場所が
いくつかある
はるかを遠く透かしてみる場所が
また いくつかある
深奥に一つの耳穴を持っていて
落ち葉のレースの蓋をしている
ふと気が付くと耳穴は幾星霜のうちに
埋もれて浅くなっている
敏感に落ち葉の音を聞き分ける
小動物の足音を聞き分ける
風の行方を聞き分ける
そんな力を失って
潜んでいるものは うすばかげろうの幼虫か
それともタランチュラか
今ゆるいカーブに さしかかると
白壁に月明りで切り絵のようにくっきりと
はりついている樹の影が
まばたきするたびに動いて魑魅魍魎をおどらせ
おいでおいでをしている
埋もれた年月を掘り起し
ひっそりと聞き分ける耳をよみがえらせ
風の方位 種子の在処を探って
遠く超えていくものを視つめている